新たなステージへの挑戦

ガラス張りの社長室からこちらに目を向ける柔和な表情。総合商社で闘ってきた日々を思わせる険しさはない。中西宏一社長は長年、原木の取引先としてキーテックと関係を紡いできた。社長就任時も「ああ、中西さんが来るのね!」と、社内でごく自然に迎え入れられたという。商社時代は70ヶ国の資源開発エリアをまわり、木材資源への理解を深めた。あんなに遠い国で育っていた木が、ここに運ばれ使われているのか、と思いを馳せることも。今は週に数回、木更津工場へと足を運ぶ。「生産現場がマーケットに近いことの意義は大きいです。実際に、製造過程を見てもらえますから」。年間1000人以上の工場見学を受け入れる中で、LVLは高強度な建材というだけでなく、質感を楽しめる木材商品としても認知されるようになった。材への愛着は、材への理解から生まれると確信する。
非住宅建築物の木造ブーム到来の昨今、活躍の場が広がる期待の大きさは、職場の活気に比例している。「耐火性能の向上や、建築分野との連携など、本番はこれからです」。2020年以降を見据え、未開の大海原へ船首を向ける。

株式会社キーテック 代表取締役社長
中西 宏一 HIROKAZU NAKANISHI

1958年大阪府生まれ。82年、大阪大学経済学部卒業。同年、住友商事株式会社入社。同社生活資材本部で一貫して木材資源・建材分野に従事し、2011年、木材資源事業部長。14年、株式会社キーテック専務取締役に就任し、15年に代表取締役社長となる。

森林から製品までをこの目で確かめ、LVLの可能性を着実に広げゆく
あるべき未来像を実現するため地球にやさしい建築部材を追求する

入社して、5ヶ月。毎日が学びの連続である。「専門とは異なるジャンルの仕事に就き、0からのスタートです」。地球環境を考えた衣食住のあり方を学びたいと、韓国の大学で繊維工学を専攻した朴智秀さん。日本に渡り、大学院では建築環境を学んだ。専門分野も国境も越えて挑戦を続ける類稀なる逞しさは、ふわりとした微笑みの中に溶ける。 環境負荷の少ない素材についての興味は、ゼロエミッションを提唱する“ブルーエコノミー”についての映画を見たのがきっかけだという。大学院時代にはソーラーデカスロン(太陽光住宅の国際コンペ)へ参加するなど、地球と人とをつなぐより正しい方法を模索する中、キーテックに出会った。「LVLは接着剤を使用した素材ですが、加工段階で廃棄するものが圧倒的に少なく、CO2の排出も少ないと知りました」。
研修期間の今は、講習会や燃焼実験に参加し、素材について理解する過程で多くの発見があるという。「将来は、ストレストスキンパネルに入れ込む断熱材など耐火部材開発事業に関わりたい。専門知識が生かせるかも」。どこにいても、目指す世界はぶれない。着実に、夢を実現させていく。

株式会社キーテック 開発課
朴 智秀 JISOO PARK

1986年韓国ソウル市生まれ。千葉大学大学院工学研究科建築学コース院修了後、2016年キーテック入社。現在開発部勤務。

「波瀾万丈の日々でした。何しろ、お手本がないのだから」。キーテックがLVL製造業に加え、加工業を導入して3年あまり経つ。栗山真哉さんは、新工場の初期メンバーとして配属された。経験者のいない中、手探りで仕事を進める毎日。予期せぬ事態が次々発生し、加工業の難しさに直面した。
大学では木質バイオマス利用について研究していた。入社2年目に筑波の建築研究所に出向して直行単板を入れたLVLの強度試験に関わり、品質管理課ではJAS規格への適合試験を重ねるなど、研究一色の日々だった。それが一転、生産現場の最前線で闘うことに。「加工は、精度がすべてです。精度が悪いと現場がすぐ困りますから。でも機械の特性上、データ通りに加工しても精度にばらつきが出るのです」。焦る気持ちを抑えながら機械を止め、原因を追求した。スケジュールが押し、繁忙期には夜間も機械が止められないことも。「どこに出しても恥ずかしくない部材をつくらねば」。その責任感から調整とチェックを重ね、最近ようやくノウハウが蓄積されてきたという。
頭も体もフル回転で仕事に当たりながら、製造と加工が同じ場所でこなせるこの環境をさらに生かすべく、「当面の課題は、加工プロセスの完成度を高めること」とする。経験が自信となり、見通しを立てる眼差しに強い光が宿る。

株式会社キーテック 製造本部 LVL加工工場
栗山 真哉 SHINYA KURIYAMA

1985年兵庫県生まれ。静岡大学大学院農学研究科森林資源化学専攻修了後、2012年キーテック入社。品質管理課を経て現在LVL工場勤務。

LVL加工工場での試行錯誤は製造・加工を一手に引き受ける力に
信頼される仕事がしたい若さと悔しさをバネに、さらなる高みへと挑む

「楽しさと苦しさの比率が、最近ようやく五分五分になってきました」。涼やかな顔で微笑むのは、営業部の虎谷悠生さん。今年で入社5年目になる。「経験不足でお客様へ的確な説明ができなかった当初は、苦しさが8割でしたね。工場で扱っているサイズや、協力会社に依頼する場合の見極めなど、瞬時に対応できない自分がもどかしかった」。
4年目を過ぎた頃、担当エリアが変わったことで初対面の相手に対して商品の説明をする機会が増え、知識が定着してきたという手応えを感じた。すると、さらに学習意欲が湧いてくる。大学では木材の物理的特性を研究していたが、もっと建築全体のことを知りたいと社外の勉強会に顔を出す。普段の仕事では得られない知識を吸収するのが、今はとても楽しい。
今、本社で一番若い。下っ端だからか、性格からか、社員を下支えする仕事も多いが、「チームとして活躍できればいい。自分は泥をかぶってもいいんで」。学生時代はラグビー部に所属し、チームプレーの何たるかは熟知している。「自分に求められていること以上の提案ができるようになりたい。自分を信頼してもらうことで、扱っている商品への信頼も高まるから」。控えめな眼差しの奥に、まっすぐな向上心が宿る。

株式会社キーテック 合板営業課
虎谷 悠生 YUUKI TORATANI

1986年福岡県生まれ。静岡大学大学院農学研究科森林資源化学専攻修了後、2012年キーテック入社。現在、営業部勤務。